先日の神保町古書まつりでは
平成5年に美しい函入りで復刊した
幸田文「きもの」(実際は
昭和40年代に書かれた作品)を見つけて
喜んでいましたが、全350頁ほどの
この本を100頁ほど読み進んで
これ、文庫で読んだな・・・という
結論に至りました。
そんなことってある?
と思うでしょうが、名だたる
作家も同じ発言をしているので
別に私が
特別呆けてるわけではないようです。
あるのですよ、こういうことが。
なんとなく、と思いつつも
気が付かなかったのは
前半、主人公のるつ子は、まだ
女学校にも上がらない少女なのに
着物の生地、その肌触りに
異様なこだわりを見せる
描写が続くんですね。
それはもう
よくもまあ、ここまで書くことがあるなと
思うくらいの着物の生地、たとえば
セル、銘仙、羽二重、メリンス
と、それぞれの良し悪しについて
書いてあるのですが、着物のことが
よくわからないと
まったく理解できない文章だったからだと
思います。
今は私も着物生活なので
すぐにイメージつきました。
このるつ子は言ってみれば
オーガニック素材じゃないと
肌がかぶれるので、化繊の着物を
嫌がるわけです。
そんなものを着るくらいなら、いっそ
洗いざらしの手ぬぐい生地で縫った
浴衣がいいと。
現代の皮膚科で調べてもらえば
すぐわかるような敏感肌だと
想像されるので、きっと混じり気のない
天然素材しか受け付けないんですね。
贅沢を言ってるわけではなく
体がうけつけない、そういうことは
今でも多々ありますが、真っ当な
絹物というと値が張りますので
気が重いところです。
そんなわけで、幸田文の
着物ウンチクと
粋と野暮の論理が
最初から最後まで
詰まったこの小説、現代では
ほぼ理解されないでしょう。
化繊でできた服など当たり前どころか
使い捨てのような価格だったり
レンタルサービスで服を身に纏う
女もいるわけですから、着物の扱いによって
その女の格が云々言われても
誰も耳を貸さない時代に変化してます。
平成5年に立派な装丁で
復刊したときは
こういった着物のことがわかる
読者がまだ多くいると
想定されていたのでしょうか。
出版社も景気良かったのかもしれませんが
なにはともあれ、転がりこんできた
この名著、大事にします。
DJ KAZURU
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