劇評家の渡辺保氏が
2009-2012年にかけて
自身の歌舞伎遍歴を振り返るような
形で連載したものを纒めた「私の歌舞伎遍歴」。
ざっくり歌舞伎のキモを
教えていただいたような気持ちになれる
素晴らしい文章ばかり。
ご自分が観たものは鮮やかに
観られなかった過去の役者については
研究を重ねて、いかなるものだったかを
伝えてくれます。
東宝に勤務していた経験から得られた
長谷川一夫の
「カセ、ツボ、ダイヤ」の演技論。
岡鬼太郎、三宅周太郎
戸板康二という優れた劇評の
先人たちについて。
歌舞伎財産を生かしたことで
リアリティが生まれた
仲代達矢の伊右衛門。
歌舞伎に女優は成立するかの
考察。
台詞が生き生きと放たれた
白石加代子の衝撃的な
鶴屋南北。
他にも
玉三郎に井上八千代にと
充実の文章で、これは今後なんども
読んでいかなくてはならぬと思うほど
大事なことが書いてあるように思われます。
渡辺保氏は、古書を読んでいけば
過去に素晴らしい歌舞伎は
たくさん書かれているのに、
上演台本にしたときに面白みが
無くなってしまうものが多いと
嘆いています。
アメリカ合衆国でいう
プレイドクター、戯曲を直す
仕事。見識を持って台本を作る
専門職がいないというのが問題だと。
そして歌舞伎には
演出家もいませんので、これらがきちんと
整えば歌舞伎ももっと良い
未来があるであろうと。
同感です。
古典ももっと面白い芝居に
なる気がする!
そして最近の歌舞伎は
様式を体に染み込ませきっていく
そんな役者が減ったとも書かれています。
様式を突き抜けたところに肚ができていく。
きっとそうなのでしょう。
劇評についても今後問題は
多そうですが、役者の機嫌取りを
けしてせず、客の立場になって
真剣勝負で書いてくれる
渡辺保氏がいる限りは
安心と考えます。
劇評は大事。
これがなくては芝居という文化は
成り立ちません。
DJ KAZURU
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