島尾ミホと石牟礼道子が
1991年に行った対談が
新装版になりました。
「ヤポネシアの海辺から」。
ふたりとも加計呂麻島と水俣という
土地に根ざした自分をそのまま
小説に昇華させたような
人だから、すごく気が合いそう。
石牟礼道子にしてみれば
8 歳先輩の島尾ミホは、自分と同じ
爆発的な感性の小説家なので
共感できるところも
多いのでしょう。
小さな島の王族の子として
生まれ育った独特の感性は
学んで得られるものではありません。
島の王族というと
原始的なイメージですが
ミホの父は漢文で文章を書いたと
いうことで、高い教養の
持ち主だったようです。
情操の塊のようなミホを前に
島の伝承や儀式の話などを聞くことができて
石牟礼道子が喜んでるのが
伝わってきます。
特に、奄美の言葉で朗読された
島尾ミホのソノシート付きの
作品を絶賛しています。
ふたりとも喋り言葉が美しくて
素敵。
今の日本人は、いくら相手を
尊敬していたとしても、このようには
喋らないので、寂しく感じますね。
石牟礼道子はミホのように
土地の生き方を大事にする人が
大好きなのですが、いっぽう
東京の魚屋で
不知火の海で見ているのとは
まるで違う魚を見つけ
「これ一昨日獲れた魚かしら」
と、つぶやき、店主を激昂させたなんて
エピソードを当たり前のように語っており
そうそう、こういうしれっと
こわいところのある人なんだよなー、と
笑ってしまいました。
いくら新鮮な魚が身近にあったからといって
普通の主婦はそんなこと言いません。
こういうことを口にしちゃうのが
石牟礼道子。
話は当然、「死の棘」にも
及ぶのですが、島尾ミホが
映画化された「死の棘」(原作は
夫の島尾敏雄、著)を
「前売り券をいっぱい買って
何度も映画館で観た」
と発言してることに
びっくり。
強烈な怒りと愛と無心
私も観ましたが、
松坂慶子演じるミホが
家庭の外に愛人を作った夫を
毎日毎日責め続けて、終いには
精神を病む話で、原作小説以上に
ミホの狂気と嫉妬が描かれています。
あれを何度もスクリーンで
観る島尾ミホって
やっぱ変わり者だなと思ったのですが
石牟礼はこの夫婦の
修羅の物語を思わず笑いがこみ上げる
ユーモラスで
楽しい小説、という読み方をしていて
それもまた自分には衝撃でした。
ミホは加計呂麻島という閉鎖空間で
大事に大事に育てられ
嫉みという感情を知らずにいたところへ
初めて嫉みが芽生えたものだから
精神を病んだという見立ては
そのとおりだと思いますが
そこでの狂乱の描写が非常に可愛らしい、と
石牟礼道子は言っています。
私はミホが気の毒でしょうがなかったけれど
島尾敏雄亡きこの対談の頃は
ミホはなにかというと敏夫の小説を
清書するとき
一字一句変えることは許されなかった
とか、女は家庭を守って、とか
島尾敏雄が正義であり唯一の指針的な
発言が垣間見られるのですよね。
不思議な夫婦だな。
研究したい。
DJ KAZURU
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