野上弥生子について松岡正剛が
語っていて、
『宇野千代も
円地文子も瀬戸内寂聴も
この人の一徹と慎ましさには
頭が上がらなかった。
上がらなかっただけでなく、その教養の
深さと広さと速さの相手など
つとまらない。
たとえば能や謡曲については
白洲正子ですらお孫さんのようなものだった』
というので、こりゃ
読まずにいられようかと探してきました。
なにより
「海神丸」は人の肉を食う話と知って
これをとにかく読まねば、と。
1922年の発表です
1951年の「野火」よりずっと前!
大岡昇平の野火も衝撃的でしたが
これはひと月以上も遭難し
海上の船のなかで
飢えに飢えて、ついには乗組員の
若者を喰わんとして殺害してしまう話です。
野上弥生子自体初めて読んだのですが
キリッとブレない文体が
ここちよかった。
結局殺したものの
畏れがまさってしまい
若者の肉を食べるには至らないのですが
そこへ追い詰められるまで
狭い船内での疑心、警戒、不安が
入り乱れる人間模様が凄かった。
死が目前に迫ったとき
人間の本性が出るなら、これも
人間の真実のかたちのひとつでしょう。
祈りというのも
テーマに織り込まれていて
充実の短編でした。
殿山泰司主演で
映画化もされてるようですが
こちらは乗組員のひとりを
海女の女性におきかえており
乙羽信子が演じてます。
役者もテーマも
新藤兼人監督の真骨頂ですね
まだ観てないけど。
ところで、海神丸を読むに当たって
冒険の森へ、という
小説大全の1巻
「漂泊と流浪」を入手したのですが
森鴎外「寒山拾得」や
夢野久作の「瓶詰の地獄」なども
収録されており
なかなかいい一冊になっています。
いわゆる全集ではなく
こういう選集も手にしてみると
意外な出会いもあり面白いものです。
DJ KAZURU
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