「おれの歌を止めるな」
松尾潔 著、拝読。
松尾潔という
音楽プロデューサーのラジオを
拝聴すると、音楽の作り手というよりも
聴く側の一愛好家として
素晴らしい人だなあ、すごく
音楽家への敬意と音楽そのものへの
愛情が伝わってくるなと感じるものでした。
自分の心と耳を育んできた過去の
アーティストに対してのリスペクトが
あるかどうかは、実際に音楽で
稼いでる人にとって重要と考えています。
アメリカとその周辺の
黒人音楽の良いところを見つけてきて
日本で紹介する。
彼が35年前くらいからやってきた
素晴らしい仕事ですね。
ただ日本人アーティストと組んで
彼プロデュースする音楽にはまったく
共振できませんでした。
御本人は
賞レースも勝ち抜いて
大きく評価されてると
言ってますが、彼と同じように
アメリカ発信の黒人音楽
ソウルやリズムアンドブルースを
聴いてきた人たちの多くは
日本人のソウル風歌唱や
アレンジにまったく
ピンと来ないんじゃないでしょうか。
私は
「ああ、あんなに
ソウル・ミュージックが好きで
深く理解してても、自分が作る音楽は
的外れになってしまうのだなあ」
と
残念に感じていました。
形は整えられても
ソウル・ミュージックの根本的な部分
音の魅惑は
自分で操ることが出来ないのだなあ、と。
しかし、本書で松尾氏は
乗用車の話題ですが
国産車に乗ることのメリットを
重々承知の上で、それでも
遠ざけてきた理由ははっきりしている。
新モデルが出て「カッコいいじゃないか」と
思っても
事情通による
「それ欧州車メーカーの真似だから」
という指摘がすぐにでてくる。
必ずでてくる。
それを聞いた途端に
気持ちは萎えてしまうのだった。
「和製◯◯」に価値を見出して
ありがたがる視点を
僕はずっと持ち合わせていなかった。
そんなときの「和製」は「模造」に
もっと言うなら「劣化版」にさえ感じられた。
と、書いてあるのです。
私はまさに彼の作ってる音楽が
「和製◯◯」もしくは
「劣化版」という感じがしていたので
びっくりしました。
つまり、松尾氏の手掛ける音楽は
米国ソウルミュージックの
矮小化された模造ではなく
別のジャンルのポップス的な音楽、という
感じで受け止める必要が
あったということですね。
いやー、びっくりしました
私は、彼がラジオで紹介する
R&Bが素晴らしいものばかりなので
冒頭にいつも流される
日本人アーティストによる
「松尾潔プロデュース作品」も
和製ソウルを目指して作られたものなのだと
思い込んでいました。
あれがJpopだというなら
なにもケチを付けることはありません。
ソウル・ミュージック的な何かを
目指していると思いこんでいたので
不出来だなあという感想を私は持っていました。
彼はソウル・ミュージックの
素晴らしい聴き手、そして
日本のポップミュージックの
プロデューサーということなんですね。
本書は他に安倍総理の国葬もどきのことや
ジャニーズ事務所の不手際
岸田総理の息子贔屓問題など
2023年前後を騒がせた事件への
エッセイが載ってます。
数年後にこれを読むと
2023年の日本にはこんなことが
起きてたんだなあと思い返せるような
本ではありますが、こうやって
一音楽プロデューサーが怒って
勇気を出して発言したことなど
この国ではすぐ忘れ去られてしまうもの
そんなふうにも感じます。
だとしたら松尾氏のなすべきことは
何年経っても風化しない名曲を
世に出すことなのかもね。
DJ KAZURU
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