中上健次「異族」拝読。
ついに完成しなかった
中上健次の長編ですが
最近講談社文芸文庫で
3850円の文庫として出版されたのが
きっかけで読みたくなりました。
しかし
いくら講談社文芸文庫といえども
むごい値段設定です。
頭にきたので全集借りてきて
読みました。
夏芙蓉のむせ返る濃厚な
香りの路地で生まれた
選ばれし血統の男タツヤと夏羽。
路地という空間を背負うことで
煌やく男たちは、時を経て
在日韓国人のシム
アイヌルーツのウタリ、ら
別の土地にも背景を嗅ぎ取るように
結びつきあう。
胸に同じ形のアザを持つ男たちは
その美しさと肉体の強さだけで
生き延びている。
右翼集団の真似事のように
暴走族の若者を従えて
空疎な
「てんのう陛下万歳」を唱え
日の丸に戦闘服。
右翼の大物は本当に
彼らを導く存在なのか
満州の王の親族なのか。
この男たちを映像に収めたいと
まとわりつくシナリオライターの
真意は?
そして台湾、沖縄と
場所を移すたびにアザを持つ
仲間が増えて
彼らの運命的な生き方が浮かび上がってくる。
未完なので
中上健次のハワイの部屋に
残されていたという
草案が付属されています。
シムは右翼の大物を殺し
自らをも殺す。
タツヤはゼロに戻り
異国へ行く?
そんな感じのことが書かれていますが
未完なのでどう完結したのかは
想像でしかありません。
それはそうとして
これだけの長編、まったくだれずに
読めるのがすごいと改めて思いました。
文章の力ですね。
ある種独特のリズムと言えましょうが
素晴しい流れでしかも力強い。
晩年の作品については
やや評価の低い中上健次ですが
それでも最近の作家とはくらべものにならない
文章だと感じます。
DJ KAZURU
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