作家の山本文緒が
58歳で亡くなったというニュースを
目にしたとき驚いたのですが、
がんと告知されてからの約半年の
思いを文章にして綴っていたのを
知った時は
やはりそうしましたか、と
納得するような気持ちになったものです。
それが、この
「無人島のふたり」。
私は「恋愛中毒」前後、つまり
著者30歳代の作品の愛読者でしたが
こういう小説を書く人ならば
自分の死への時間も
書くだろうという感じがしました。
告知の時点で4ヶ月
もしくは半年というリミットを
突きつけられ、体調も思わしくない中
40歳で再婚した、元担当編集者の
夫と、身辺整理をする日々。
絶望的な状態であっても
彼女の興味は読書や執筆にあり
村上春樹を読み返したり
送られてくる誰かの新作に
共感したり、なんかもう
どうあっても山本文緒の人生なんです。
「自転しながら公転する」を
遺作にするには不出来だから
出す予定の短編集を早く世に出したいと
思う冷静さも含め、見事な
作家の人生の終わりでした。
そしていくら立派でも見事でも
彼女の無念さというものが伝わってくる。
まだいくらでも書けたはずの
作家、山本文緒の最後の思いを
読者として噛み締めました。
・・・
まだ書きたいことはいっぱい
あるのに、時間がなくなってしまった。
「表現は人を傷つけ時には
訴えられることもあるのに、表現を
止めることができない。
盗作紛いのことをしてまで創作に
かじりつく、頭のネジが一本
飛んでるみたいな人を書こうと思っていた。
これは私小説まではいかないけれど
自分が長年文芸の世界で見てきたことを
盛り込もうと思っていた。
でもこれももう完成させることは
できないので
どなたか書いてくださってOKです。
・・・
振り返ってみると
この日記を書くことで
頭の中が暇にならずに済んで
良かったと思っている。
何も書かなかったらただ
「病と私」のふたりきりだったと思う。
長年小説を書いてきて
もういい加減
「書かなくちゃ」という強迫観念から
解き放たれたいと感じるかと思ったら
やはり終わりを目前にしても
「書きたい」という気持ちがのこっていて
それに助けられるとは思ってもいなかった。
・・・
DJ KAZURU
Add A Comment