「秀十郎夜話
初代吉右衛門の黒衣」
千谷道雄 著、拝読。
これ昭和三十年に書かれた本なので
ホント昔の役者ばかりが登場しますが
生涯名代役者を支える
裏方の役者だった秀十郎という人の話です。
明治三十年生れ。
家が没落しすったもんだした挙句
14歳で三世市川新十郎(六代目菊五郎や
初代吉右衛門のお師匠番)の弟子となるも
雑用しかさせてもらえない。
32歳の時
新十郎が死んだため、初代
中村吉右衛門に引き取られて
30年間いわゆる三階、で
スポットライトも当たることなく
来た人です。
トンボを切る
馬の脚をやる、のほかも
衣装の引き抜きや
斬られた首をどう出すか。
そんなことですけど
それがきちんと決まってなければ
歌舞伎の舞台は成り立たないのも
事実。
例えば役者が
座るところでスッと腰掛けを
差し出すタイミングも
役者の都合で合わないこともある。
そんな時自分の体を差し出して
椅子の代わりにするとかいうことは
機転が利かないと出来ないんですよ。
また、敦盛の首実検のとき
敦盛の首を出すときどうしても
客席から笑いが起こってしまう
(大道具の作った首の雰囲気の
問題のような気もするが)それを
黒幕を工夫して
そろりそろりと出すようにしたら
笑いも起こらなくなり役者も
満足だった、と。
トンボの種類も
実に色々あると知りました。
結局この人は
歌舞伎が好きだし、役者が好きだし
その末端とはいえ、自分がいることで
舞台が成立してる面もあるわけですから
嬉しかったんでしょうね。
後見の仕事は
表でやってる本人と同等か
それ以上の技量がないと
勤まらないということは
よく言われます。
秀十郎は生涯表に出ることはなかったけど
ある種の自負は
むしろ強くあったんじゃないかしら。
ともかくこういう本があって
スポットライトの当たらない
役者の気持ちも知ることができて
大変面白かったです。
よくまあこんな本が出版できたものだと
思いますが、解説にあるように
歌舞伎の「秘境」である下廻りの
役者っていうのは我々の興味を
そそるんですよね。
だって有名役者以外のことは
殆ど情報が入ってこないのだもの。
DJ KAZURU
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