
嶽本野ばらの
数年ぶりの新刊、といっても
読んだことはなかった気がする。
「ピクニック部」には3篇が
おさめられてますが、まず
ジェーン・マープルというブランドの
服に人生捧げているような
20歳代の女性ジェジェと
フリマアプリで繋がった
高校生の女の子ブサの
物語「ブサとジェジェ」。
メルカリでものをやり取りすることも
特定のブランドにしがみついた経験もない
私にも伝わるこのファッション熱。
多分特定の服というより
そのブランドの発信する哲学に
惹かれて彼女たちは蒐集するのではないかと
思われます。
同じようなベロアのスカートを
何枚も所有するというのは
そういうことですよね。
アプリで物品の売買をするという
非常に現代的な結びつきの中ですが
ここで描かれているのは
もっと古い時代、つまり現在50歳代である
作者が二十歳くらいの時に
蔓延したファッションに生き方を投影する
空気のような気がします。
それが現在もロリィタ界隈では
残っているということなのか…。
と、ここまで書いて
著者インタビューを読んでのけぞったのですが
ここに登場するジェジェは50歳代とのことです。
文章から彼女が50歳代であることは
まったく読み取れず
もう一度読み返しましたが、本文から
そこを汲み取るのって無理なのでは。
あとがきに
「ジェーン・マープル
ラフォーレ原宿4.5階時代を知っている
ジェジェは僕と同世代」
と書いてあり、そこで
分かる人には分かるのかと思いましたが
本文でわからせてほしかった。
たとえば「満州引き上げ時に」とあれば
まあ昭和20年か21年の話かなと
一般的に想像できるけど
ラフォーレでロリータブランドが
移転した時代というのが読み手の
共通認識と考える著者の方に
無理がある気がしました。

続く
「こんにちはアルルカン」は
まさに
現在60歳になる女性(こちらは
明記されてるんだよねえ)が
若い時から自分の心に寄り添ってくれるような
美しい靴、服を大切に着ている話です。
社会性ではなく
自分の心で着るときの
服へのときめきが
伝わってきます。
細かいディテールの描写で
そのブランドを見たことのない私にも
熱が伝わってきて、ああファッションて
素敵なんだと。
もうそういう信念のあるブランドって
いくつもないのかもですが
いいものだなあと思いました。
この話は高校生の時の
小さな友情の話も含まれていて
そこには我らが氷室冴子も登場。
氷室冴子オマージュでもあります。
若い頃の理想が高ければ高いほど
老いた自分に我慢できなさそうな
気がするけれど、いざ
自分が老人になってしまえば
美意識を貫く道は実は
大きく用意されている。
そんな頼もしい気持になれました。
結局は美しいものが
感じられるか否かということ。
洋服にパターンひとつに
感動できるかどうかは
自分の心次第なのですから
老いた容姿とはまた別のものなのに
なぜ老いと同時に心まで
奪われる気になるのでしょうね。
作者も自分が老いて
見えてくるのがあったから
こういった小説が生まれたのかと思います。
この熱量が好ましいです。
アデノフォラベロアドレス、着てみたい。
表題作
「ピクニック部」は
著者の生涯青春の心で
ときめいていたという願望でしょうか。
可愛いものへの憧憬、愛情を
隠さない
お洒落で料理にこだわる
シスターボーイの物語。
そういう男性がいることは
むしろ好ましいと思う私ですが
なぜか性的に絶倫であり
鍛えているので
握力もすごいという設定がなされており
途中から萎えました。
可愛いものを愛でる心だけで
じゅうぶん素敵な男の子の
キャラクターだったのに。
なぜそこに
肉体的な男らしさが加味されないと
いけないのでしょうね。
DJ KAZURU
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