
皆川博子の「聖餐城」を
先日の古本まつりで見かけて
買おうと思ったら定価よりも高い値付けに
なっていまして、自分の買い物の
流儀に反するので断念。
ボロボロではありますが、文庫が
図書館にあったので
借りてみました。
結果やっぱり
買えばよかったー、くらい面白かったです。
2007年の初出
文庫化2010年なのでさほど
古い本でもないのですが
絶版になるとあっという間に
入手が難しくなりますね。
岡本文弥が
皆川博子の「みだら英泉」
(江戸期の絵師の物語)を読んで
「その時代のなんやかや
よくもよくもとあきれる程の知識豊富
この作者、一体どういう人かと知りたくなる」
と、エッセイに書いていますが
江戸期の風俗をみごとに描ける人が
17世紀初頭のドイツ三十年戦争のことも
見てきたように書けるというのが
また、驚愕なのです。
カトリックとプロテスタントが
拮抗する時代。
各国の陣取り合戦が沸点に達してる。
戦乱の世で貧しい男たちは
誰が誰と戦うのかもよくわからないまま
傭兵となり戦争に参加するしか無い。
そこで負傷することが
わかりきっていても他に食べていく方法は
ないから。
孤児のアディは
宮廷ユダヤ人の息子で不思議な力を持つ
イシュアと出会い、戦火の中
徐々に上り詰めていく。
この二人の成長物語でも
あるので、そこだけにフォーカスしても
魅力的な小説です。

先の読めない戦時下で
誰もが生き残るために策略を講じ
もちろん失脚し、はねられた首が
晒されることもある。
フラスコの底のような暗い牢に
閉じ込められ、復讐の機会を
狙う者の気持ちを描くときも
銃の撃ち合いを指揮する者の
巧みな計算を描くときもを
皆川博子のスケールは大きい。
日本の戦国時代の風ではなく
ドイツが細かく分かれていた時代の
ヨーロッパの空気がちゃんと
感じられているような気になるからすごい。
汚れとされて、人に触れてもらうことも
できない刑吏の一族の哀しみや
娼婦として兵士たちから
金をもらうしか無い女たちの
生き様も皆川博子にかかると
それぞれがひとりひとりの物語として
くっきり浮かび上がる。

何より血が飛び散り
骨がくだける戦乱の描写の見事なこと。
ずっと戦争してる時代の人間とは
かくなるものか、と思わされる
ところが多々ありました。
それにしても
皆川博子はすごい、これに尽きます。
DJ KAZURU
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