第144回芥川賞、ダブル受賞は
かなり興味深かったです。
私のような元文学少女には
「朝吹」という姓を目にしただけで、あれ
「悲しみよこんにちは」かしら、ということに
なるわけ(矢張り強烈でしょう、「愛人と、娘が
朝からバタつきパンのことで口論している、なんて
シャルマンな光景なんだ。ってのが)でありますが
想像どおり、朝吹登水子氏の
ご親族が朝吹真理子嬢でありました。
そんなシャルマンな連想も吹っ飛ぶようなのが
もうひとりの受賞者、中上健次の再来みたいな
風貌の私小説家・西村賢太氏の登場。
「苦役列車」
拝読いたしました。
日雇い労働者の、美しくも無ければ
楽しいことも碌すっぽ感じられない日常。
西村氏が
「ほぼ実際に起こったこと」だというそれを
誇大することも無く、いやしめる書き方をするでもなく
淡々と綴っていました。
大きく支持したいな、こういうの大好き。
今「人とつながりたい」とかいうことを
平然と発言される方も少なくないようですが
氏は、
自分には友達も女もいない、だって
自分がこんなんですから。細々と
私小説を書くだけです。と、まあ
実に潔いのでありますね。
実際には氏も小説内の主人公も
人とのつながりは大いにあるのですが
「無縁社会上等」
という感じです。
酔うためだけの酒
安い風俗の女、とか
普通なら眉を顰めたくなるような描写にも
なぜだか、共感してしまう。
これも文章の力でしょうか。
選者の山田詠美氏が
「正当にやさぐれているのを
正当に描写しているのに、そばを
おそば、自分を、ぼく」というのに
ぐっと来る、と
いうようなことを書いておられましたが
そういった萌えどころも多々でして、言葉の
バランスにノックアウトされたところもしばしば。
西村氏は尊敬する藤澤清造氏の
全集を自力で刊行しようとしているそうで
それにかかる費用一千万強も芥川賞のお陰で
工面できそうだと言ってます。
なんとも気持のよい
お金の遣い方じゃありませんか。
(DJ KAZURU)
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