「ヒタメン」 岩下尚史 著 拝読。
タイトルが突飛なようですが
能において、能面を外した時の
顔が直面(ヒタメン)というらしいですね。
素顔、という意味になるでしょうか。
びっくりするほど
楽しく読める三島由紀夫の研究本。
生涯ただ一度の恋の相手であった
貞子嬢との三年にわたる
蜜月を、なんと本人の口から
紐解いてしまってますから、すごい。
憶測ですが
三島専門に研究していた
いわゆる国文学の
学者さんは地団太踏んだのではないですかね。
貞子嬢が
歌舞伎界とつながり深い
料亭の娘であったこと、現在に至るまで
歌舞伎座界隈で
一目置かれる存在であることと
著者が
花街のありように
深い造詣をおもちであり、また
新橋演舞場で重要なポストを
担っていたことがあいまって
引き出せたであろう
「そうだったのかー!! 」 な
出来事の数々。
貞子嬢は見事な教養の持ち主ですから
学者であっても
舞のひとつもしらないような、ましてや
料亭に足を踏み入れたこともないような
人には語りたくなかったでしょう。
もちろん恋の顛末というのは
一方の言い分だけではわからぬもので
三島由紀夫のいいぶんもあるでしょうが
ひとりの純情な男・平岡公威氏の
人間性は充分に本書から伝わりました。
昭和30年代当時に
何の苦労もなく、歌舞音曲にあけくれ
金銭の苦労のない実家から
これまた金銭に苦労のない家へ嫁いで
浮世離れ(としかわたくしには思えない)した
生活ぶりの貞子嬢の話は
世界遺産にしたいような
面白さと稀有さであります・・・。
しかし、こうした御嬢さんに
女性の理想像を見出したとして
付き合いを続けるのに、三島は
資金の調達を一生懸命していたというのが
何とも切ないです(当の貞子嬢は
50年が過ぎてようやく、三島が金策に走っていた
ことを知ったという、こののんびり具合)。
岩下氏の
知識人であるが故の、皮肉な
物言いも健在でして、貞子嬢と
岩下氏の遣り取りも秀逸。
はー、いったい
自分はいつになったらこのような
粋な会話が出来るようになるのでしょうか。
(DJ KAZURU)
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