宮尾登美子先生のエッセイ集
「生きてゆく力」拝読。
日本の四季のうつろい
土地独特の風習を
美しい日本語ですくいとり
時代時代の息吹も鮮やかに
小説のなかに落とし込んでいく
大好きな作家。
短い文章においても
はっとさせられる表現がいっぱいで
エッセイといえども
大切に読みたい書き言葉であります。
宮尾氏の父親は
高知にて「芸妓娼妓紹介業」を
営んでおり、これは
ざっくりいえば女郎斡旋、かなり
特殊な環境で
生を受けたといえます。
その関係で
幼くして売られてきた少女たちとの
生活体験であるとか、
18才で結婚、出産してすぐ
終戦間際の満州へわたり
1年の収容所生活の体験とか、
初めて女性にも
参政権が出来たとき投票所で
熱い気持ちになったこと、
作家を志そうと自分を奮い立てた日のこと、
などなどが
素敵な文章で語られておりました。
「紹介業」という仕事は
赤貧にあえぐ家庭において
娘が家族を身一つで助ける、その
仲介業。
戦中までは親孝行の介助行為と
信じ、むしろ
誇りを持って、宮尾氏の
父親は職業をまっとうしていたのに
戦後、何もかも価値観が変貌し
これがただの
人身売買行為であったと認識したときは
衝撃であっただろうと、書かれております。
「東条英機に騙されて」など
自分の愚かさを呪う文章を日記にたくさん
残していたとか・・・
戦後は日本の首脳部への激しい憤怒と
自身への深い悔恨の中で
貧乏に甘んじつつ
老後を送ったとのことですが
この父親像は宮尾氏の自伝的小説にも
登場し、これまた
非常に興味深いものです。
(DJ KAZURU)
Add A Comment