高村薫氏の話題作。
これを読む準備として
「照柿」と「マークスの山」を
読み返していました。
「冷血」。
理由なき殺人をテーマにしてみたかったと
作者が発言していたのを
記憶していますが、理解しがたい
殺人事件を中心にしつつ
近年の日本の抱える
不可思議な構造を見据えた
作品ということも言えるのではないでしょうか。
いわゆる警察小説ならば
難事件のもとに熱意みなぎる
刑事が登場し、読者が思いもよらぬ真実が暴かれ
終結。。。というのが定石ですが
「冷血」においては
犯人も、事件に至る経緯も
小説の前半で
すべてが語られております。
憎いから殺したのでもなく
金銭に執着した強盗でもない、そんな事件は
様々な疑問符を残すだけ・・・
しかし後半
一家惨殺、強盗事件において
犯人の心がどのように揺れたのか、また
揺れなかったのかが
何度も何度も、まるで
ロス・バン・バンのライヴ演奏みたいに
微妙な変化とともに語られ
読んでいるこっちも
頭の中が妙にグルーヴしてきます。
異常な事件は現実社会でも
異常者の犯行なのだから、と
飲み込むしかないものですが
「理解不能」と思われる人間にも
向き合うべき人生があり、光があり
闇があるということを
徹底して描く小説の終盤は圧巻。
闇サイトで知り合って、流れに任せるように
殺人者となった二人の男のうち
ひとりは裁判を待たずに病に倒れ
ひとりは死刑囚となりながら
躁鬱を繰り返し
不思議に魅力ある文章を残していきます。
なまなましい「生」というものの
片鱗も感じられなかったふたりの犯罪者が
死を目前にして
ぽつりと落としていくもののかけら。。。
高村薫氏は
やはり今の時代に必要とされている
作家であります。
(DJ KAZURU)
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