宮尾登美子 著
「きのね」 拝読。
今年2月に逝去された
12代市川団十郎の父にあたる
11代市川団十郎がモデルの小説。
梨園一家の内情を
小説化するなんて
もちろん、当人たちからの承諾はなかなか
取れなかったようですが
12代目を取り上げた産婆さんと
コンタクトがとれたことで
宮尾氏は執筆に踏み切ったと
解説にありました。
私は世代的に
12代目と現・海老蔵しか知りませんが
芸については名高い11代目。
容姿にも恵まれていたようで
すごい人気の色男だったとか。しかし
この小説により
今だったら警察沙汰ものの
DV男であることがわかり衝撃です。
名家出身の女性との縁談もあったものの
暴力と短気が災いして
結婚はうまくいかず、また
女中との間に
子供までもうけていたり(幼いうちに病死)
芸妓との深い付き合いもあったりと
派手な女性関係。
そんな中
なんの後ろ盾もない家にうまれ
19歳から地味に
ひらたすら女中として団十郎に仕え
女遊びも横目でみつつ
身辺すべての世話に明け暮れた女性が
のちの団十郎夫人、つまりは
12代目団十郎の母ということ。
主人が病に倒れたときは
自らの身体を顧みず
輸血をしてあげたり、大変な献身だったようですが
お手付きになって、子供を産んだ後も
なかなか本妻の地位は得られず
息子が舞台に立つようになり
ようやく世間にお披露目となったとか。
本人は
いたって控え目な
びっくりするほど地味なタイプとして
49年の生涯を終えたようですが
まさに
尽くす人生。
一番驚愕のエピソードは
妊娠を公にできず
誰の手伝いもない中
たったひとりで初産を終えたということ・・・
しかも厠で逆子を産み落とした!
これが12世の団十郎なのだよなあ。
何年もの間
自分はおろか子どもの籍も
認めてもらえなかったなんて。
インタビューとかを拝見するにつけ
団十郎のおおらかであたたかい
けしておごらぬ雰囲気が
素敵だなあと思ってましたが
こうした母親をもった
複雑さを背負っていたこともあり
人間が大きくなったのかという気もしました。
(DJ KAZURU)
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