新田次郎 著
「八甲田山 死の彷徨」拝読。
日本の史実を知るためにも、また
小説としてもすぐれた作品。
そもそも映画化された作品が好きで
「二百三高地」と並んで日本人なら
見ておくべき映画かと思います。
日露戦争を目前に
実際に行われた
記録的な大雪の中での
軍隊の訓練の顛末。
200名近い凍死者を出したこの事件は
当時もセンセーショナルに報道されたらしい。
ロシアと戦争するのなら
寒さや雪の経験が重要と考えるのは
当然、しかし軍があまりにも
吹雪の天候を甘く考えたため
こんな結果になったのです。
軍の幹部は
ふたつの編隊を競わせるように
八甲田山のこちら側と
あちら側から出発させ
途中ですれ違うような計画をそれぞれの
大尉に課します。
一方は雪に親しんでいる
地元民の案内をたよりに少数精鋭で
行ったため、落伍者を出さずに
帰還したのですが
一方の編隊は
地元民の進言を耳に入れず、また
よりよい成果を出そうとするが為
大編隊を組み、それがために
遭難。
船頭多くして船、山に上る状態をつくり
全滅に近い結果となりました。
壊滅した隊のほうで
他の人の意見をきかず
我儘ほうだいの山田少佐って人が
出てきます。
彼は
さんざん計画を引っ掻き回したうえ
体力を失い、下っ端の兵士に抱えられて
吹雪をさまようのですが、当然
山田少佐を抱えて歩く兵士が倒れていき
次々命を落とすことに。。。
彼は大勢を権力という名のもとに
巻き添えにしても当然、という存在で
書かれています。
現実に軍隊はそうしたものであったようです。
兵士たちの犠牲の上、山田少佐は
なんとか死なずに戻ることができたのですが
結局「責任とる」とかいって
自決・・・こういう展開は
彼を助けて死んでいった兵士も含めて
犬死にとしかうつりません。
現在のように
ヘリコプターで雪山捜索できる時代でも
危機に面した時
些細なことが明暗を分けることは
ありますが
「死を恐れない」明治の軍人の
危機意識は
「最終的には死んで詫びればよし」
となるからおそろしいのです。
周囲の「死にたくない」人たちまで
巻き込む「責任イコール自死」のかたちは
やっかいなものです。
そして
この雪の行軍で命を落とした兵士たちに
支払われた見舞金等々は
階級によりびっくりするくらいの
差がつけれた金額でした。
人間の命はつい最近まで
「等しく同じ」
ではなかったのだと思い知らされます。
(DJ KAZURU)
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