2013年度
毎日出版文化賞・書評賞となった
辻原登 著
「熱い読書 冷たい読書」。
団鬼六からスタンダールまで
ピックアップされたものの
内容は幅広く。
この書評を読んでしまったがために
「読まなくては!」 との
衝動に駆られる。
冒頭部分のつかみのよさ
分析の明快さ
鋭い指摘には
ドキッとさせられ・・・
既に読んだ作品に対しても
未読のものについても
同じくわくわく感を与えてくれるこの楽しさよ。
たとえば
湯本香樹実 著 「岸辺の旅」を
評した冒頭部分。
すべての物語は冒険譚だ。
いまは滅んだ日本の<私小説>だって
ほら、
私はこんな心の旅をしてきたのですよ、と
報告するわけだ。
生きて還ることが原則である。
また、吉田修一 著 「悪人」を評した
冒頭部分。
すべての小説は「罪と罰」と名付けられうる。
今
われわれは胸をはってそう呼べる
最良の小説のひとつを前にしている。
渦巻きに吸い込まれそうな小説である。
渦巻きの中心に殺人がある。
また、高樹のぶ子 著 「トモスイ」を評した
冒頭部分。
短篇(コント)を読むに際して
まず我々は性急に
「どこかへ連れて行って」と呼びかける。
すると
冒頭の一行が素早く
随いておいで、と
ささやくように応じる。
この呼吸が大切だ。
いい短篇はみなこれを心得ている。
と、こんな調子で
次にくる文章への期待が
どっと高まるわけですが
もちろん、辻原氏は
その期待に応えてくれます。
よき書評があるおかげで
本の森で遭難せずに済む。
幸せだ。
(DJ KAZURU)
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