「寂しい丘で狩りをする」
辻原登の新作 拝読。
性犯罪の被害者と
告発に逆恨みしている
加害者の復讐劇、ときいて
辻原氏にしては
かわったテーマだなあ、と
思いましたが
読んでみると、やはり
単純な捜査もの、犯罪ミステリーでは
ありませんでした。
主軸である
不条理な「お礼参り」については
もうただただ恐ろしく、
犯罪を
未然に防ぐ手立ての薄い
社会において、保護されるべき
「被害者」なのに、薄氷を踏む思いで
生活せざるを得ない、その心持ちの
描写にぞっとします。
それとは別に
山中貞雄監督の映画というのが
重要な小道具として登場します。
山中氏は実在の映画監督ですが
20代の若さで
戦地に召集され、中国で
亡くなった人。
私は「人情紙風船」と
「丹下左膳、百万両の壺」の
2作品を見ていますが
素晴らしい映画でした。
現存するフィルムは
これを含めて3本のみだとか。
戦地で遺書のようなものを
書き残してあり、そこには
「山中貞雄の遺作が
人情紙風船ではチトさびしい」
とかいうふうに書いてあったことは
映画ファンには知られている事実ですが
生きて仕事をしたい!と
願っていたことでしょう。
歴史に残る作品を
まだまだ撮った可能性の高い人を
あっけなく死なせてしまうとは
ほんとうに情けないこと。
彼が生きていれば
日本映画の歴史は
変わっていただろうとまで
言われている人らしい。
戦争とは才能を
摘み取っていったことなのだとも
思わされます。
(DJ KAZURU)
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